創作庭のニヒリスト

落書きと、フリゲプレイ日誌と、雑記。

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日誌 …… フリゲに関するプレイ日誌を、絵を交えてざっくり書いている。
雑記 …… つらつらと絵を描きながら語るだけ。
独白 …… 執筆鍛錬用の短文置き場。

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フリーゲームのことを語ったり、絵を描いたり、日常を語ることが多いです。
色々なことに好奇心と向上心が波打っている。
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管理人

芝生

HN:芝生
ゲームとかお絵かきとか小説とか猫とか好きです。

独白

(18/03/19)「その手を」【十一頁】
 わずかな悲鳴が耳に入った。目を凝らして闇の奥を見てみると、彼女が倒れていた。仰向けに倒れて首をもたげ、不安に揺れる二つの瞳がこちらをじっと見ている。唇は何かを紡ごうとしているのだが、少し開いたままで何も音が出てこない。
 どうしたのだろうと近付いてみると、彼女の上に何者かがいたことに気付いた。それは彼女そっくりの姿をしていて、薄らと笑みを張り付けて、こちらを見据えていた。

「ごきげんよう! なんの御用でいらしたんですか?」

 嬉しそうに弾むような声を上げているが、鋭い目の奥にはちらちらと不穏な何かが潜んでいた。これ以上、足を進めようものなら噛み付かないばかりに、薄く口を開けて歯を見せながら、歪な笑顔を取り繕いっている。

「なんの御用でいらしたんですか?」

 もう一度、彼女は同じ言葉を発した。

「悲鳴が聞こえたんです」
「悲鳴? それはどちらから?」
「彼女からです」

 僕はそう言って、彼女の下にいる、苦し気に顔をわずかに歪ませていた彼女を手で指した。だが彼女に全体重を乗せて、動かせまいと両肩を抑えている上の彼女は、その問いを聞いてさもおかしそうに声を立てて笑った。

「嘘をおっしゃい。どこに悲鳴なんてものがあるものですか」
「だけど、そちらの彼女から僕ははっきりと、助けを求める声を聞いたんです」

 何度言葉を重ねても、彼女の束縛を解く気はなさそうで、ますますその抑圧は強くなっていく。彼女の胸にのしかかる体重の圧迫感に耐え切れず、彼女の口から再び小さな悲鳴が上がった。

「ほら、痛がってるじゃないですか! 放してあげてください!」
「黙れ!」

 唐突に、空気に緊張の糸が張り巡らされた。もはや隠すことを厭わずに僕に対する嫌悪を露呈し、牙をむきだして声高々に威嚇している。獣のような成りをしながらも、それは確かに彼女であった。

「貴様なんぞに、彼女を助けられるものか! 己の身だけが一番の、浅ましい貴様なんぞに、彼女を助けられるものか! そうやって嘘をついて、また騙す気だろう? あたしがまた間抜けな面して騙されると思っているのか? お前の手の内は知ってるんだよ! 貴様があたしのことを理解できることもなければ、する気すらも毛頭もないくせに! 見せかけだけの偽善と、気まぐれだけで手を伸ばしやがって! いね! あたし自身はあたしが守るんだ! あたしだけがあたしを知っていて、あたしを大事にしていて、あたしの唯一無二の味方でいられるんだ! ろくすっぽどこぞの誰とも知れない貴様なんぞが、あたしを助けられると思うなよ! ほおら、嫌な顔してきたね? あたしの唾が嫌になってきたんだろう? だったらあたしのことなど構わないで、さっさとどこかに行きなよ。ごきげんよう! オホホホホホ!」

 彼女が様々な感情の波に揺られて冗長に語り続けている間も、上に乗っている彼女の手は下で仰向けに転がっている彼女の首を絞め続けている。もがく手に意識すら向けず、ただひたすら夢中になるように、言葉が重なるたびに重心が首元を絞める手へと傾き、下にいる彼女の呻き声がどんどん大きくなっていく。
 見開かれた目は、助けを求めるように僕へと求められた。涙がとめどなく溢れ、彼女の頬を伝って床へと流れ落ちる。もう限界が近いのかもしれない。

「ねえ、よしなよ。僕は何もしちゃいないじゃないか。君を傷付けてるのは君自身だよ。その手を放してやりなよ。このままじゃ、君自身が死んじまうよ」
「騙されるものか。あたしに必要なのはあたしだけだ。お前なんかいらない。あたしはあたしがいれば十分。あたしがあたしを愛してやれば十分。いじめてやしないさ。どこがいじめてるんだ。それともお前はなんだ。お前は一生涯あたしのそばにいたあたしよりも、あたしを受け入れて愛せるとでも? なんの保証もないのに? なんの根拠もないのに?」

 彼女の細い首が絞まる。緩められることなくどんどん絞まる。ああ、だめだ、これ以上絞めてしまったら、もう、彼女は。

「わかったか? わかっただろう? いいからあたしたちに構わず、さっさと、いね!」

 どこからか、骨の折れる音がした。あとには流れ込んだ静寂と、横たわる亡骸が一人、薄暗い路地にいるだけだった。

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